財政出動について③ 将来世代の負担論の誤謬の直観的な理解

 

まず、前提知識として、日本の対外純資産は360兆円、経常収支は年20兆円であり、貯蓄率は長期にわたって高く、毎年日本人は自身が消費する以上にお金を稼いでおり、海外からお金を借りて生活の足しにはしていません

そのため、日本人の現在の生活水準を維持しているのは、現在の日本人の労働及び過去の日本人が創り出した資産(外貨、固定資産、無形資産、インフラ)です。



政府の借金が将来世代の負担となるとする主張があります。それによると政府の借金が増加すれば、将来世代の生活水準を悪化させるとのことです。

 

しかし、客観的な事実として、日本国債の9割は日本企業、日本人が保有し、残りの1割はは外国法人が所有しますが、それを超える外貨建て資産が日本政府にあります。

つまり国の借金は実質的には日本人同士のお金の貸し借りです。

 

日本人同士でお金を貸し借りしているのにもかかわらず、日本人全体の生活水準が下がることがあり得るでしょうか?

もしそうであるならば、日本の労働力と資産が、国の借金が増加すると棄損するということになりますが、そんなことは起こりえません。

日本人同士の借金の存在そのものが、日本国内の実物資源や労働力の供給を制約することはありません。

よって、政府の借金が増加すると、将来世代の負担になるという考えは完全に誤っているのです。




 

財政出動について② 財政に対する誤謬

日本は緊縮財政の真っ只中です。

1997年以来、全く物価上昇率が上がらないかデフレであり、たとえ物価が上昇してもその要因の大半が消費税増税、円安、エネルギー価格の高騰であったが日本経済であります。

なぜ、緊縮財政は悪なのか?

それは、財政に対する根本的な誤謬を持った考えを基にした政策が緊縮財政あるからです

その誤った考えとは主として次の三つです。

誤謬第一、政府債務が増加すると将来世代の負担が増大する、
誤謬第二、政府債務が増加すると財政が破綻する。
誤謬第三、政府債務は完済するべきである。


まず、誤謬第一について考えていきます。

まず、絶対的な前提事実として政府債務が増加すると、民間の資産が増加します。
特に日本は対外債権国であり、海外からお金をネットでみれば借りていないため、政府債務の増加は直接的に日本家計と、企業の預貯金を増加させます。
これは誰かの借金は誰かの資産となるためとても当たり前のことです
事実として家計の金融資産は2021年3月末時点で1946兆円で2000年と比較して545兆円増加しています。
政府の借金である普通国債残高は2021年3月末時点で約990兆円で、2000年と比較して622兆円増加しています。

そのため、政府の借金の増加は私たち日本国民の預貯金増加につながります。
だからこそ、政府債務の増加は悪ではないし、恐れる必要はないからです。

ここまで書くと一部の人は、そうだといっても結局債務は最終的に償還しなければばらず、将来世代の負担となる!!!!とわめく人がいるので一応書いておきますが、客観的事実として、歴史的に政府債務が減少した国は殆どなく、日本も米国も英国も政府債務は超長期的に増加しています。
そのため、客観的な事実として、政府債務は借り換えを続けることで、半永久的に返済が不要なのです。
そもそも、政府債務の増加自体マネタリーベースを増加させる、貨幣発行システムでもあります。
それはおかしい、フリーランチはあり得ない!!と反論がありますが、フリーランチが無いとは、「誰かが生産しなければ、誰かが消費できない」ということであって、「誰かがお金を刷った(借金をつくった)から誰かが完済しなければならない」というわけけではありません。
金融システム貨幣システム自体は、本質的には、実体のある資源や労働力を担保に存在する消費や投資を制約しないのです。

 

財政出動について① 緊縮財政の定義

日本経済を危機に陥らせている緊縮財政について説明する。

こう書くと緊縮派の人々は、ワニの口だ!!!、累積債務が1000兆円あるのに何で緊縮なのか???

と反論するので、まず緊縮財政の定義をハッキリさせておく(私が一番主張したいことは日本が緊縮財政であることではなく、日本が財政出動をするべきである)。

 

緊縮財政とは、

第一、物価上昇率が低い又はデフレ下で財政規模を拡大させないこと及び実質的な増税を行うこと。

第二、財政規模の伸び率が名目GDP成長率を下回ること。

第三、物価上昇率抑制ではなくPBの赤字削減及び政府債務削減そのものを目的として財政規模を減少させたり増税を行うこと。

 

と定義する(こう書くと、勝手な定義を書くなと批判する奴がでてくるが、それを言うなら、緊縮派の財政破綻の定義が、日本国債金利が3~4%を超えることと書いた小林慶一郎氏やそもそも財政破綻の定義を示さない大前研一氏にもその批判をするべきである)。

 

日本型国家資本主義の構築へ

 

 

 

再分配と徴税権の新形態確立のため、日本政府による公的資金を用いた、日本企業株式購入、保有は必要である。

ただそれだけではない、これは、新たな資本主義システム開始の好機であるとも考える。

国民国家の力の根源である徴税権のその本質的な目的は、貨幣価値の裏付けを行うことと再分配を行うことである。

 従ってその目的が満たされるならば、徴税が既存の形態つまり法人税等で行われる必要は全くない。

 私は、国家が企業の株式を保有することは十分に徴税の目的を果たすと考える。

勿論、現状の保有額では、法人税を無くすには程遠いし、そもそも、法人税を引き下げるべきだが、無くす必要があるかは不明である。

けれども、今まで、上場日本企業の株式を100兆円保有しているのである。

これを200兆円にすることは不可能ではない。

100兆円さらに日本企業の株式を購入すれば、配当性向を一定と仮定すると、大まかな計算だが、法人税率を29.74%から23.6%に6.14%削減できる。それに伴う格差の拡大も、徴税権の侵食も防ぐことも可能なのである。

 

この、新たな徴税手法の一種である、日本政府による日本企業株式取得を、日本型国家資本主義と私は定義したい。

 

資本主義システムを維持しつつ、社会主義的な生産手段の公有化を国家による株式保有にとって実現する、新しい経済システムである。

 現在、国家資本主義体制の国は、中国を筆頭に旧社会主義国に多い、中国等の国家資本主義国家は、非営利国有企業と国家組織の営利化及び営利事業の推進を特徴とする。たとえば、人民解放軍傘下の企業はトマト栽培を行い、トマト缶を製造販売している。

 

このため、中国等の国家資本主義は、既存の営利企業の株式を、国家が購入保有する、国家資本主義とは一線を画すものである。

 

そこで、私は中国の国家資主義と異なることを明確化するため、日本型国家資本主義という用語の使用を提唱したい。

 日本型国家資本主義を確立するこができれば、如何にグローバル化が進行しようとも、国家と企業はその利害を完全に共有することになる。

増税によって再分配を強化させることに必要な政治的コスト、経済的コストが大きいために、世界的に格差が拡大してきた。

しかし、日銀がETFを購入することやGPIFの日本株購入は、殆ど政治的コストがかからず、時の政権によって容易に実行できる政策である。

更なる、公的資金を用いた国家による日本企業の株式保有推進が望まれる。

日銀によるETF購入やGPIFの日本株取得に対する誤った批判に反論する

 

 

 

まず、日銀によるETF購入は、コーポレートガバナンスを損ない好ましくないとする主張、

批判がまかり通っている。この主張は次の点で誤っている。

第一に、日銀がETFを取得することで、コーポレートガバナンスが損なわれた実例は未だ存在しない。

第二に、大企業において株主投票により、その企業の経営が改革された実例は極わずかであり、モノ言わぬ株主である日銀の保有分が増加することは、企業の経営に悪影響を及ぼさない。また。日銀のETFを介した保有分増大が他株主の提案を阻害することはない。

 第三に、日銀保有ETFの株式議決権は、ETF組成会社により株式価値向上のために行使されている。

 

次に、日銀によるETF購入は、健全な株価形成を阻害し、資本市場を混乱させているとする主張、批判がある、この主張も以下の点で誤っている。

第一に、健全な株価は誰にもわからない。株価は常に正しいものでは無いことは事実である。そのため、この批判は完全に的外れである。

例え、健全な株価というものが存在したとしても、日本株が諸外国に比べて異常に高い状況ではなく、批判には当たらない。

 

 

第二に、株価が上昇することが健全な株式市場である。株価が上昇するから、企業は資金調達を株式市場ですることができる。

日銀によるETF購入は株価を上昇させることに繋がる、上昇させることそのものには問題は全くない。

 

さらに、日銀によるETF購入は、日銀のバランスシート上に、リスク性資産を増加させるため、資産価格が下落した場合、日銀が破綻し通貨の信用が滅失するという主張、批判がある。

この主張も以下の点で完全に誤っている。

第一に、例え株価が下落し、日銀が債務超過に陥るとも、日銀は発券銀行でありいくらでも円は発行できるため、債務不履行とはならす、円の信用も棄損しない。また、日銀はバランスシート上発券した紙幣を負債と計上しているが、当然発券紙幣には返済義務は存在しないため、実質的な日銀純資産は100兆円以上存在し、保有ETFが無価値となっても実質的には債務超過とはならない。

 第二に円の信用は高々数十兆円の日銀純資産ではなく、日本政府の徴税力、360兆円の対外純資産、150兆円の外貨準備、550兆円のGDPに支えられているため、そもそも日銀の信用と円の信用がリンクしているとは考えられない。

 

 

 

 

 

国家が企業の株式を保有することの意味


この日本政府の日本企業株式保有額が多いか少ないかは各個人の主観による。しかし東証一部上場企業の加重平均配当利回りは2.23%であり年約2.23兆円が配当金を通して、一般政府収入となる。
法人実効税率約29.74%、法人税収が10.8兆円(2019年度)である日本においこの2.23兆円は法人実効税率を約6.14%上昇させた額と等しい。
安倍政権が始まってからGPIFの保有日本株が17兆円から45兆円に、日銀ETF保有額が1兆円から45兆円に、合わせて72兆円増加している。
つまり、法人実効税率を4.42%増加させるのと同じ分、一般政府の収入が増大したことに等しい。
安倍政権は、法人実効税率35.47%%から 29.74%に5.73%分減少させた。
しかし、国家による株式買い入れにより、法人税率を4.42%増加させたのと同じ分収入を増加させている。
以上の事実を踏まえれば、安倍政権下に行われた、一連の法人税引き下げ策は、実質的には、法人税率を1.31%減少させたに過ぎす、これが原因として格差拡大を推進するとは考えられない。事実、所得面の格差拡大を示すデータは存在しない。
勿論、GPIFの株式比率増大と日銀のETF購入は、安倍政権が格差拡大を防止することを目的に実行したわけでもなければ、国家資本主義や社会主義化を目的としたわけでもない。
ただ、支持率獲得のために株高を指向したことやGPIF自身の収益率拡大策、日銀の金融緩和策の方向性が一致し、大規模な政策として実行されただけである。

しかしこの結果には、強く刮目する必要がある。
政府が日本企業の株式を直接又は間接的に保有することは、実質的には、日本政府による企業の国有化が進行していることを意味する。
現代資本主義国家において、これ程大規模な国有化がなされたことは二次大戦時を除いて存在しない。
筆者はこれを日本型国家資本主義体制構築への第一歩であり、歓迎するべきことだと考える。
過去数十年にわたって、全世界的に法人税率の引き下げ競争が続いてきた(図2参照

図2

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また、タックスヘイブンの繁栄も著しい。このため、国民国家の徴税力が侵食されつつある。

日本は、現状法人税率が諸外国と比べ、高く(図3参照)、法人税率の引き下げは好ましくいない。国際競争力を鑑みれば、さらに引き下げるべき状況にある。

然れども、更なる引き下げは、長期的な視点では国民国家の破壊につながりかねないし、再分配システムを破壊し格差拡大に繋がりかねな い。

 

だからこそ、新しい徴税権の一形態として、日本政府による上場日本企業の株式保有があると考える。事実、上記に示した様に安倍政権による一連の日本政府による日本企業株式購入は、配当金を通して、再分配に繋がっている。

図3

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上場日本企業の株式国家保有割合

日銀保有ETF及びGPIFの保有する株式時価総額は2020年末で約90兆円(図1参照)


図1

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ETFとは別に、銀行支援策として過去の銀行から買い取った株式が1.6兆円

(J―REIT上場不動産投資信託が0.7兆円)

 

日銀及びGPIF保有の株式時価総額91.6兆円(2021年11月時点)

 

日本政府が保有する株式時価総額

株式会社産業革新投資機構を通して間接保有する株式は、日本政府の産業革新投資機構の実質持ち分95.8%を掛けて算出

 

NTTの34.69%                 3.57兆円

日本郵政の63.29%               2.28兆円

JTの37.6%                                  1.65兆円

ルネサスエレクトロニクスの32.38%    0.56兆円

東京電力の54.74%               0.24兆円

国際石油開発帝石の18.96%           0.16兆円

日本政策投資銀行の上場保有株約           700億円

石油資源開発の34%                  374億円

ジャパンディスプレイの32.39%              118億円

 

総計8.58兆円

 

 

 

地方自治体の保有株式時価総額

東京都

東京都競馬の27.98%                   373億円

東京電力の1.2%                        52億円

東京きらぼしフィナンシャルグループの9.62%       326億円

 

大阪市、神戸市、大阪市高速電気鉄道

関西電力の12.43%                      1,119億円

 

富山県

北陸電力の5.4%                        75億円

 

千葉県

オリエンタルドの4.03%                  2422億円

 

山口県

中国電力の9.43%                      449億円

 

高知県

四国電力の3%                           44億円

 

  総計4. 860億円

                                                                       0.486兆円

 

2020年11月末日時点で上場日本企業時価総額は687兆円

 

その内 100.6兆円が国家保有株となる。

よって上場日本企業株式の約14.6% が国家保有分となる。

 

また、2020年11月末日時点で上場不動産投資信託時価総額は13.54兆円

その内、0.7兆円が国家保有分である

よって上場不動産投資信託の約5.2%が国家保有となる。